ほの暗い永久から出でて
023/(著)上橋菜穂子/津田篤太郎/文春文庫/
保管場所:社員保管(貸出不可)
【なぜこの本を選んだか】
『精霊の守り人』など、架空であるとわかっていながら現実とも往来してしまう、不思議なファンタジー描写のファンである上橋菜穂子氏と、東洋医学と西洋医学の両方の知見から共感することも多い、津田篤太郎氏の往復書簡とあり、両者の奥深い感性が紡ぐ交歓はただそれだけでも関心が高まった。更には、予期せぬ感染症に見舞われた時世について、彼らがどのように向き合っているのか、その思考に触れてみたいと思った。
【本を通じて学んだこと】
豪雨被害や震災など、この日本を直撃した自然災害について、動物や虫の生態系や“ザリガニの鬱”について、そして最も興味があったコロナ禍における双方の受け止めなどが、爽やかなリズムで語られている。
生物は他者との戦いを余儀なくされており、短い寿命と引き換えにすばやく進化する細菌やウィルス、寄生虫などに負けぬように、乱数を発生させる「性」のシステムで対抗してきたそうで、遺伝子やゲノムレベルで起きている経過に、コロナの発生が起きるべくして起きた事態のように思わされた。
『鏡の国のアリス』の赤の女王は「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」と金言を残すのだが、走り続けることで、人間の身体自体も健康に保ち、肥満を防ぐ方向へともつながり、運動不足故に「考えるだけで、息があがる」とお返事をしたためる上橋氏の表現に、新陳代謝のもたらす可能性は常に念頭におくべきであるとも過ぎる。「社会問題解決型AI」から「阿闍世コンプレックス」、大切な親の死など、世の中は、相関的な因果関係であることも提議されている。
【この本を読んで目標に対して自分はどう活かせるか】
「最高の人生を送るにはどうしたらよいか?と軽薄なことを考えた時期があった」というような一節がある。原理的に比較しえないことだとまとめられているのだが、AIの到来は、リセットボタンにより、いまいちだと認識した瞬間にリスタートを切ることが可能で、ある種「最高の人生」を目指すことを許すようなところがあると思う。性産業にも時代の変化が訪れており、上橋氏によると、今後、初めての性行為がラブドールになるかもしれないとあった。市場の参入拡大が進んでいけば、誰もが入手しやすい低価格なものも登場するだろうし、充分にあり得るだろう。欲望だけが満たされる、体温が共存しない状況で心にはどういうものが残っていくのだろうか。ラブドールは一例として、人とのふれあいが減少傾向にある中で、それが大切だと思うのであれば、赤の女王のご指摘の通り、走り続けることはあきらめてはならない。
【この本のあらすじ】100文字程度
上橋氏のお母様のご病気と介護を機に、津田氏との交流が始まったそうです。大切な人の死に向き合うことを土台に、生命体の連鎖の様を感じられる往復書簡です。命を生み出すのも、終わりにするのも人で、世界の行く末を左右することに部外者はおらず。それは社会や家庭にも準える事実で、いつも当事者であることを思い出されることでしょう。